日経サイエンス  2004年1月号

初飛行から100年 ライト兄弟の栄光と悲劇

D. C. シュレノフ(SCIENTIFC AMERICAN編集部)

 ライト兄弟(Wilbur and Orville Wright)による人類初の動力飛行から,まる100年になる。この偉業も当時は秘密のベールに閉ざされ,栄誉が確立したのはずっと後になってからだ。兄弟が歩んだ道は平坦ではなかった。

 

 1903年12月17日,弟のオービルが動力機によって12秒間,約37mを飛行し,ノースカロライナ州沿岸の砂地に突っ込んだ。100年後のいま,私たちはその日付を航空史上の輝かしい記念日としている。兄弟が世界初の本当に操縦可能な飛行機を作って飛行に成功したのは,これからさらに2年後のことだ。しかし残念なことに,自分たちの飛行機が確かに売れると思えるものになるまで,兄弟は隠密裏に改良を進めていった。こうした秘密主義が災いして,当時の科学ジャーナリズムから疑いの目で見られ,専門家仲間からも一般大衆からも正当に評価されない時期が続いた。

 

 ライト兄弟は米陸軍通信隊やフランスと商談がまとまる見通しになるのを待って,ようやく公開飛行に踏み切った。1908年8月8日,フランスのル・マン近くの競馬場でのことだ。1909年にはニューヨークで公開飛行して群衆を圧倒,名声は極まった。

 

 しかし,航空機という魅力的な新産業に資金と有能な人材が流れ込むにつれ,兄弟はライバルたちの急激な追い上げに見舞われた。1912年にウィルバーが腸チフスで亡くなると,残されたオービルは激化する競争や長期にわたる特許侵害訴訟との格闘を強いられた。彼は飛行機ビジネスに疲れ果て,1915年に手を引いた。しかし,懸命の努力の末に飛行を成功させた名コンビの1人として,その業績を歴史の中にとどめる闘いをやめることは終生なかった。

原題名

The Equivocal Success of the Wright Brothers(SCIENTIFIC AMERICAN December 2003)

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