殺虫性タンパク質α-アミラーゼインヒビター類の特長

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要約

インゲンマメとその近縁種であるテパリービーンには、阻害特異性の異なる4種のα-アミラーゼインヒビタータンパク質(αAI)分子種が分布している。昆虫種に応じてαAI分子種を使い分けることにより、殺虫性遺伝子として効率的に利用できる。

  • キーワード:インゲンマメ、α-アミラーゼインヒビタータンパク質、虫害抵抗性
  • 担当:近中四農研・作物開発部・育種工学研究室
  • 連絡先:084-923-4100、ishimoto@affrc.go.jp
  • 区分:近畿中国四国農業・生物工学
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

農薬に過度に依存しない総合的防除体系の確立が求められており、なかでも、病虫害抵抗性品種の育成とその利用は中核的技術である。しかし、虫害抵抗性遺伝資源を得ることの困難性や育種年限の長期化等の問題により、主要な害虫に対してすら抵抗性品種による対応は困難な状況にある。そこで、作物に由来する安全性の高い殺虫性遺伝子を単離し、その構造と機能を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • インゲンマメおよびテパリービーンには、構造と各種α-アミラーゼに対する阻害特異性が異なる4種類のα-アミラーゼインヒビタータンパク質(αAI)が分布する(図1)と(表1)。これらαAIは昆虫やほ乳類のα-アミラーゼ活性を阻害し、微生物のα-アミラーゼは阻害しない。
  • αAI-1はインゲンマメ栽培種および野生種に最も広く分布するαAI分子種であり、αサブユニットとβサブユニットの2種のポリペプチド鎖から構成されている(図1)。αAI-1は豆類の貯蔵害虫であるアズキゾウムシとヨツモンマメゾウムシに加え、穀類を食害するヒラタコクヌストモドキとチャイロコメノゴミムシダマシ幼虫、ヒトやブタなどのα-アミラーゼ活性を強く阻害する(表1)。
  • αAI-2はインゲンマメ栽培種と野生種の一部に分布するαAI分子種であり、αAI-1と同様にαサブユニットとβサブユニットの2種のポリペプチド鎖から構成されている(図1)。αAI-2はブラジルマメゾウムシ幼虫のα-アミラーゼ活性を特異的に阻害し、ヒトやブタなどのα-アミラーゼ活性は全く阻害しない(表1)。
  • αAI-Pa1はテパリービーン栽培種および野生種に広く分布するαAI分子種であり、他のαAIとは異なり、1種類のポリペプチド鎖から構成されている(図1)。αAI-Pa1は貯蔵害虫のα-アミラーゼに対する阻害特異性はαAI-1に類似するが、ヒトやブタなどのα-アミラーゼ活性は全く阻害しない(表1)。
  • αAI-Pa2はテパリービーン栽培種と野生種の一部に分布するαAI分子種であり、αAI-1と同様にαサブユニットとβサブユニットの2種のポリペプチド鎖から構成されている(図1)。αAI-Pa2は貯蔵害虫のα-アミラーゼ活性を広範に阻害するが、ヒトやブタなどのα-アミラーゼ活性は全く阻害しない(表1)。

成果の活用面・留意点

  • αAIはデンプン分解酵素であるα-アミラーゼの活性を阻害し、昆虫を餓死させる。したがって、αAIは食物中のデンプンに依存した貯蔵害虫に対して有効である。
  • αAIのcDNAおよび発現ベクターは分譲が可能である。遺伝子組換えにより、これらαAIをアズキ、イネ、タバコ種子に集積できることを確認している。
  • αAIは調理中の加熱によって失活する。生食用作物での利用には、安全性を含め検討を要する。

具体的データ

図1.精製した4種α-アミラーゼインヒビターの電気泳動パターン

 

表1.4種α-アミラーゼインヒビターの阻害特異性

その他

  • 研究課題名:α-アミラーゼインヒビター遺伝子の導入による耐虫性作物の開発
  • 予算区分:組換え植物
  • 研究期間:2000-2002年度
  • 研究担当者:石本政男
  • 発表論文等:Yamadaら(2001) Plant Cell Tissue and Organ Cult. 64: 47-54,Yamadaら(2001) Phytochem. 58:59-66
ishimoto@affrc.go.jp